孤独のグルメ Season2-10 北区 十条の鯖のくんせいと甘い玉子焼

自然体すぎる女優陣

前回の続き。五郎さんの中で色々と思うところはあったものの(そこはこの記事の後半で)、ようやく「田や」の暖簾をくぐった五郎さんである。

店内には、茶髪と黒髪の二人のお母さん。それぞれ松金よね子さん、川俣しのぶさんという芸達者なお二人である。とかく面倒な中年女性を演じさせたら双璧ではないかというお二人だが、今回は明るく気さくなスタッフを自然体で好演されている。少なくとも自然体に見せられる名優であるわけだが、あまりに自然すぎて全てがアドリブに見えるくらいだ。

そのハイライトが、「ももハムとキムチ」をめぐる五郎さんとの以下のやり取りだろう。

五郎さん
「ももハムとキムチ」ってなんですか?
茶髪母
キムチをハムで巻いちゃうんで、巻いて食べるんですよ。
五郎さん
キムチで巻く?
茶髪母
そうそうそう、とにかく巻いちゃう。ね?
五郎さん
キムチで……ま……く
黒髪母
常連さんと話してるうちにね、なーんかできちゃったのよねー。

茶髪のお母さんは「キムチをハムで(巻く)」と言ってるのに、五郎さんは「キムチで(ハムを)巻く」とすれ違う。しかもそのまま訂正もされず、黒髪のお母さんも参戦して話題は違う方向へ。結局、このあと五郎さんはさして躊躇もなく「キムチをハムで」巻いて食べ始めるので、当初の誤解は何だったのか分からないままだ。

孤独のグルメ Season2-10 北区 十条の鯖のくんせいと甘い玉子焼

Amazonプライム・ビデオより引用

そして、見逃せないシーンがもう一つ。

手を合わせ、小声で「いただきます」と言った五郎さんに、画面に映ってもいない茶髪のお母さんが「はい召し上がれ!」と大きな声で答えるのである。対して、五郎さんは声のしたほうを見上げ、苦笑する。これはかなりレアなシーンだ。

観返しポイント:
18分13秒あたり(「Amazonプライム・ビデオ」の場合)。

個人的には、五郎さんの「いただきます」と「ごちそうさま」は、周囲に聞こえてない設定だとばかり思っていた。一人メシを食べるおじさんが小さく手を合わせ「いただきます」と言っちゃうのは、リアルで目撃するとちょっと心配になる光景でもある。これは「ヒーロー番組」で言うところの変身ポーズのようなもので、敵の側も襲わないのがお約束ではないか。

しかし茶髪母さんは容赦しない。礼には礼で応えるのである。

この女将、無邪気につき

五郎さんに画面外から不意打ちを食らわせた茶髪母さん(さっきからこう書いているが、クレジットが「茶髪母」なのである)。その様子は終始とにかく楽しそうだ。ただ、松金さんの演じる他の役のイメージか、ちょっと怪しさも感じる。客の反応を楽しむ、そんな無邪気な怪しさだ。

気になるのは、カウンター奥のおじさんである。五郎さんが店に入ったときから茶髪母さんに酒を注がれていたが、その時点ですでに出来上がっていたように見えた。しかし五郎さんが店を出る時点でもまだ酒を注がれ続けている。

孤独のグルメ Season2-10 北区 十条の鯖のくんせいと甘い玉子焼

Amazonプライム・ビデオより引用

途中から半分寝てるんじゃないかという酔いっぷり。茶髪母さんが(勝手に)気を回して隣の客におすそ分けするのだが、それにすら気づいていないように見える。

終盤、目の開かないおじさんの顔を、笑顔で覗き込む茶髪母さん。酩酊させてどうするつもりなのだろう。おじさんはこのあと無事に店を出られたのだろうか……。

下戸の言い訳

五郎さんは言わずもがな下戸である。それなのに赤提灯にインスピレーションを受けて店を選ぶのは疑問だ。「赤提灯=旨い肴」はいかにも吞兵衛の発想である。

もちろん、ドラマの裏話的にはそれが正解かもしれない。書籍「孤独のグルメ 巡礼ガイド」の中で、松重豊さんはこう話している。

『スタッフさんに酒好きが多くて、ロケハンも酒を飲みながらしているので、「これ完全に酒のつまみでしょ?」っていうメニューが回を追うごとに増えているんですよ』

孤独のグルメ Season2-10 北区 十条の鯖のくんせいと甘い玉子焼

Amazonプライム・ビデオより引用

しかしそれは裏話であるからして、井之頭五郎としての理由はやっぱり必要だ。
五郎さんは店に入る前、ハッとしてつぶやく。

五郎さん
「そうか……俺は赤提灯が心に引っかかってたんだ。飲まないからピンとこなかったけど。今日の俺は珍しく赤提灯気分だったんだ」

難解である。

出先で赤提灯が「心に引っかかっ」た五郎さんは、「珍しく赤提灯気分」になり、無意識に「田や」にたどり着いた。なぜ無意識だったのかというと、「飲まないからピンとこなかった」からだ。

やはり五郎さんをこの店に導いた「赤提灯気分」もまた、飲む人にはピンとくる類のものだ、と解釈するべきだろう。

五郎さんはたまに吞兵衛に対して「酒飲む輩(やから)たち」とか「どいつもこいつも吞ちゃん兵衛ちゃん」(いずれもSeason3の8話)などと敵対心を露にするが、その実、やはり憧れてもいるらしい。

孤独のグルメ Season2-10 北区 十条の鯖のくんせいと甘い玉子焼

Amazonプライム・ビデオより引用

居酒屋の料理を「そこら辺のイタメシよりずっとおいしいよ」なんて言っちゃう若者に、「こういう店は、どこかと比べられる味じゃないんだ」なんて鼻で笑いながらつぶやく五郎さんである。口元にあるのはお猪口ならぬ味噌汁。いかにも常連風情だが、この店を訪れた回数は後ろの若者のほうがたぶん多い。
しかし「お猪口片手に言ってみたかった」感がダダ漏れの、お茶目な五郎さんである。酒が飲めれば常連になってもおかしくなさそうだ。

下戸なりに「田や」を堪能して店を出た五郎さんは、店先の赤提灯を見てつぶやく。

「酒飲みが赤提灯に誘われる気持ちがわかるよ……」

ここに来て初めて「赤提灯気分」が理解できた五郎さんであった。だが今の五郎さんの「赤提灯気分」は、入店前のそれとは恐らく違う。五郎さんは吞兵衛の気持ちが理解できたのではなく、五郎さんなりの「赤提灯気分」を見出したのだ。五郎さんは続ける。

心が寒くなったら、そっと尋ねてみよう」

思えばこの日は寒空の下でかき氷を食べてしまい、五郎さんは体の底から冷え切っていた。そんな自分を迎えてくれた「田や」の気さくな接客と、思い思いに食事を楽しむ酔客たち。五郎さんにとっての「赤提灯気分」は、心と体を癒してくれる「温かさ」のことなのだろう。

 

▼ ところで提灯屋のご主人はその後……

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